2009年4月25日土曜日

組織の崩壊と機能維持 4 ジェネラリストとスペシャリスト

先に、旧日本帝国陸海軍の転落を検証した齋藤健氏の著書を紹介し、ジェネラリストの払底とスペシャリストの跋扈が、組織構造を硬直化させ、状況の変化に対応して本来の目的を達成するための機能を失わせた、ことを指摘しました。

組織の構造において、ジェネラリストとスペシャリストをどう構成するかという問題があります。特にこの窮まった時代において、激動の変化を組織全体がいかに生き残っていくかということはたいへん重要な問題です。ジェネラリストかスペシャリストか、という議論は今にはじまったものではありません。ジェネラリストとかスペシャリストという言葉は使わないまでも、どこの組織にもこういった議論はあるのではないでしょうか。「専門馬鹿では使えない」とか、「あちこち回されても結局中途半端」とか、そんな話しは結構耳にすることかと思います。

組織におけるジェネラリストとスペシャリストの関係に関して、数学者である長沼伸一郎氏の「複雑系に騙されないための「査定法」」というコラムにたいへん興味深い部分があります。

三体問題とか多体問題というテーマがあります。これは、相互に作用する二つの系の間であればその運行を解き予測することができるが、三つ(三体)あるいはそれ以上(多体)になると途端に解けなくなる、というものです。

多体問題(たたいもんだい、N-body problem)は、互いに相互作用する三体以上からなる系を扱う問題のこと。 古典的な多体問題としては、太陽系のような恒星と惑星が、万有引力で相互作用し合う場合の惑星運行の問題が挙げられる。太陽と地球のような二体問題は厳密に解くことができるが、例えば月の運動も考える一般の三体問題以上になると解くことはできないとされる(但し限定された条件では解が存在する)。18世紀にはラグランジュが研究を深め、19世紀末にポアンカレによって証明された。然しながら、ポアンカレの証明は、積分法(代数変換、初等関数の変換、積分の有限回による解法)の範囲であり、この範囲以外の解法の存在については現在も不明である。 [出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』]

長沼氏は「対角行列作用マトリクスN乗理論」という手法を使って、この三体問題(多体問題)に解を与えています。それは、すごく乱暴に言えば、「作用要素が三つ以上あると、解けない」ということが分かった。というか「世の中、解けるもののほうが稀」ということが分かったということです。

ここから派生して考えますと、いろいろと興味深いことが示唆されます。たとえば、循環器・消化器・神経・内分泌....と、人体を作用要素ごとに分けて、それぞれについて研究し、それを持ち寄ってくっつけたところで、人体が分かったことにはならない、ということになります。組織についてはどうでしょう。これが、国家、あるいは世界となればどうでしょうか。長沼氏は上記論文の「§組織構成から診断する研究機関の実力」という章で、以下のように述べています。

例えば社会を10個ぐらいの専門分野に分けて調べる場合、経済だけの専門家と軍事だけの専門家がそれぞれ作る小行列のN乗は、全体のN乗に一致しないことが示されており、このことから組織設計の重要な原則が導かれる。  すなわちこの場合、たとえ狭い各専門分野についてのみ通暁した専門家をいくら大勢揃えていたとしても、それら全部の要点をよく把握したゼネラリストが最低一人はいて、後者の発言力が前者より優先していない限りは、ほとんど無意味だということなのである。  実際こういう場合、問題をいくつかの専門分野に分割してから調べて後でつなぎ合わせることができないわけだから、たとえ作用マトリックスの①の部分をいくら各個に精密に扱えても、それらの相互作用たる②の部分を把握する能力をもつゼネラリストが主力となっていない限り、過去の分析も未来の予測も全く使いものにならないのである。 出典:複雑系に騙されないための「査定法」

全体をいくつかの要素に分け、それを詳しく分析し理解したとして、では、それらを合わせれば全体が理解できるか、といえば決して全体を把握することはできない、ということです。では、相互作用を把握するジェネラリストが主力なら、どうしてこれがうまくいくのか。三体問題(多体問題)は解けないのではないのか。要素に分けて、それを持ちよっても解けません。しかし、解けないけれども"分かる"ことはできます。「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」と言いますが、広く正しく歴史や事象を理解していることで、相互作用のパターンが共鳴するのでしょう。ですから狭い引き出しだと誤作動してしまいかねないのです。そこが"優れた"ジェネラリストを必要とする所以なのだと思います。

組織に当てはめていえば、経理・企画・製造・営業....と専門分野に分けて、それぞれに優れた専門家を集めたとしても、全体をうまく運営することはできない、ということになります。これが、軍だったら、国だったらどういう状態を意味しているでしょう。各部門に優れたスペシャリストは必要だ。しかし彼らが権威となっては全体が機能しない。各部門に精通し、かつ各部門を繋ぎ、その全体を俯瞰総覧し統括するジェネラリストがいてこそ、全体は機能する。といえましょう。

各部門に精通し、なおかつ全体を統括する頭脳と、各部門のスペシャリストを牽引するだけのリーダーシップを必要とするわけですから、そのようなジェネラリストは簡単なことではありませんし、誰にでもなれるというものでもないでしょう。だからこそそのようなジェネラリストが輩出されるような教育体系が重要になります。それは単に知識だけではなく、様々な人ととの調整ができるコミュニケーション能力、経験に裏打ちされた度胸や実行力、リーダーとしての覚悟と自己抑制も求められる教育となりましょう。

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