2009年4月24日金曜日

疫病の季節 3 ~その時どいうことが起こるのか

■パンデミックの社会的影響

いったん一般社会の中で大流行となれば死亡者数だけではなく、社会機能のさまざまな所に甚大な影響を及ぼし、私たちの生活に深刻な影を落とします。


1)膨大な数の死亡者

短期間のうちに何十万~何百万(悲観的なシナリオで数千万)の人間が死ぬということはどういうことか。家族皆罹患となれば誰がその面倒をみるのでしょう。家族という濃厚な空間の中では十分あり得る事態です。下手をすれば一家全員死亡ということもあり得ないことではありません。単身生活者の多い集合住宅では、隣の住人が亡くなっていても誰も気付かないということも考えられる事態です。放置される遺体はさらに衛生環境を悪化させます。

新型インフルエンザがいったいどんな病気なのか、出現してもいない現時点ではわかりません。呼吸器感染なら咳やくしゃみの飛沫や痰や鼻汁が濃厚な感染源となりますが、もしも全身感染なら血液や便も感染の危険があります。つまり遺体が濃厚な感染源になる恐れがあるということになります。

その遺体は誰が埋葬するのでしょう。そもそもそれだけの人が亡くなれば火葬場のキャパシティをはるかに超えます。大正期に日本でスペイン風邪が流行った時も火葬場は満杯で順番待ち。棺桶は山積み。野焼きや山野に埋めざるを得なかったといいます。僧侶も嫌がり参列する者も少なく、まともに葬儀も出せない有り様だったとか。繰り返しますが、それは致死率2%のスペイン風邪の場合でです。

厚生労働省は新型インフルエンザ専門家会議の名で「埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」も定めています。遺体からの感染を防ぐため、遺体は非透過性の納体袋に収容・密封して火葬するよう求めています。しかし、それが可能なのは感染の封じ込めが機能していて、患者が病院で亡くなる場合であって、死亡者数が多くなればとても間に合わないでしょう。

上記のガイドラインでは、パンデミック期における対応として、火葬能力を超える場合は遺体を一時的に安置する施設を確保するよう求めていますが、それも収容能力を超える事態となれば遺体に十分な消毒を行った上で墓地に埋葬するよう、埋葬可能な墓地がない場合は転用可能な公共用地を臨時の公営墓地とするよう提言しています。

もしも短期間のうちに多数の死亡者が集中するようなことがあれば、公園や河川敷に遺体を埋葬しなくてはならない事態もあり得るということです。でもそれって誰が運ぶのでしょう。葬儀社も手一杯になるのではないでしょうか。


2)医療従事者への感染

・新型インフルエンザ発生時における医療体制

さて、新型インフルエンザに対して我が国ではどのような医療体制を想定しているのでしょう。厚生労働省は新型インフルエンザが発生した時点で(フェーズ4)、それに対応した医療体制を敷くよう各都道府県に求めます。

具体的には、第一段階として保健所等に「発熱相談センター」を設置し、また「感染症指定医療機関」に指定されている中核病院には「発熱外来」「感染症病棟」を設置することになります。そして発熱などの症状のある人は「発熱相談センター」に相談するよう広報し、住民に周知させます。

発熱等の症状のなる患者は「発熱相談センター」に相談し、疑わしい場合は「感染症指定医療機関」の「発熱外来」を受診するよう勧められます。「発熱外来」で新型インフルエンザの可能性が疑われれば、入院を勧められ「感染症病棟」で検査・経過観察となります。診断のため患者の喀痰などを採り、それを保健所に送り、そこから地方衛生研究所で分析します。きわめて新型インフルエンザが疑わしい「疑い例」であれば、されに国立感染症研究所に送って確定診断をし、陽性と同定されれば新型インフルエンザ「確定例」となります。「感染症病棟」に入院していた要観察の患者には入院が勧告され、入院勧告に基づく医療がなされる、という筋書きです。

そうやって患者を感染症病棟に隔離して感染の拡大を抑えられればいいです。しかしその努力にもかかわらず患者数が膨大に増加すれば入院勧告に基づいて患者を隔離するような方法は無意味となるので、入院勧告措置は解除され、重症者のみ入院で他は自宅療養で対処するようになります。入院を要する重症患者が増え、病床が足りなくなれば、公共宿泊施設などを利用して療養病床にあてるという措置がとられることになります。(その人員はどうやって確保するのでしょう)

・「新型インフルエンザ発生」までのタイムラグ

ところで、受診から確定診断までどれくらい時間がかかるものなのでしょう。ニュース番組で「日本国内で新型インフルエンザの患者が発生しました」という報道がなされるのは、実際の患者発生から何日目になるかということです。受診当日に確定までいたるということはないでしょう。もし確定診断までに1週間かかるのなら、その間は社会に新型インフルエンザが拡散しているものの、それを知らずに生活していることになります。

国立感染症研究所が、海外で新型インフルエンザに感染したビジネスマンが東京に降り立ち、翌日から電車で会社に出勤するという想定でシミュレートしてみたところ、東京圏では10日間で22万人が感染し、2週間で全国に広まり36万人が感染するという結果がでたそうです。

ということは、「確定例」との診断がつくころには相当の人が感染しており、病院に殺到しているのではないでしょうか。そのような状況下で「発熱相談センター」に相談してくださいという指示が徹底されるのでしょうか。第一、受診する患者が自ら「新型インフルエンザ」を疑って適切に受診するとは限りません。『ちょっと風邪っぽい』ということで近所のかかりつけの医院に行くかもしれません。逆に『新型インフルエンザだとしたら大変だ』と不安にかられて直接救急外来を受診してしまう人もいるかもしれません。そうすれば診療所や病院の待合所が二次感染の媒介所となります。なにも知らずに、受け付けの人や看護師さんや一般外来、一般診療所のお医者さんが感染するかもしれない。その可能性は非常に懸念されます。

医療を担う医療関係者には事前にプレパンデミックワクチンを接種しようという対策が考えられています。しかし濃縮されて備蓄されているワクチンを希釈し分封し、全国全ての医療関係者に接種するのにどれくらいの時間がかかるのでしょう。それにワクチンを接種してから免疫が誘導されるまでには数週間かかるといいます。仮にワクチン配備に1ヶ月、免疫誘導まで数週間というのなら、それはフェーズ4になった時点から準備して間に合うのでしょうか。以上のことから考えますと、プレパンデミックワクチンによる防御ラインの形成の成否は、発生地からの拡散をどれだけ食い止められるかということにかかっているといえます。逆に、封じ込めに失敗し急速に流行が拡大するようなら、プレパンデミックワクチンによる防衛ラインの形成は間に合わないのではないかと危惧されます。


3)医療機関への過剰負担と医療機能の破綻

現在でさえ医師の過重労働が問題になっていたり、救急がパンク状態だといわれていたりするわけで、そこへもってきてキャパシティを越えた数の患者が医療機関に殺到すれば医療体制そのものが破綻します。インフルエンザ以外の病気やケガの治療もままならなくなるでしょう。心筋梗塞を起こしても交通事故に遭っても、病院中テンテコ舞いでとても手が回らないなどということも十分考えられます。

その上、医師、看護師、事務職員の中にも感染者が出ればスタッフの数は少なくなります。例えば子どもさんが罹患すれば看病するために休まざる得ないスタッフもいるでしょう。病院機能はさまざまな職種でなりたっています。検査技師、放射線技師、給食、清掃、みなさん院内院外での感染の可能性はありますし、それぞれに家族がいます。

人的資源だけではなく、医療器材などの物資も不足することが予測されます。人工呼吸器の数には限りがあり、どの病院も余裕はありません。医薬品や点滴の在庫も底をつくでしょう。しかし医療器材が足りないのはどこも同じなので、なかなか物が回ってこないということも考えられます。加えて物流に支障がでれば、病院には患者があふれかえっているが必要な物資は手に入らず、医師も何もできない。場合によっては入院患者の給食もままならないということもあり得るのではないでしょうか。

一旦パンデミックが起こり膨大な患者が発生すれば医療は破綻し、人的にも物質的にも医療資源は払底するでしょう。前線で働く医師や看護師などの医療スタッフが打撃をうければ、パンデミックが終息した後の医療レベルは後退を免れません。

4)社会基盤従事者の感染と社旗機能・行政機能の破綻

感染率25%としたら、人口の1/4の人が感染することになります。感染率40%なら100人のうち40人です。となれば相当の人が仕事を休まざるを得なくなるでしょう。というより二次感染の拡大を抑えるためには症状のある人は職場に出てくるべきではありません。場合によっては職場の閉鎖が必要ということもあり得ること。今の世の中、どこの職場も人的資源にはゆとりはありません。人件費を抑えるためにギリギリの人数で複数の業務をこなしているのが実情ではないでしょうか。皆様の職場で20%の人が休んだら仕事はなりたちますか。

それが警察や消防といった社会治安を維持する職場で起こったらどうでしょう。電気・ガス・水道といったライフラインを維持する職場や会社でおこったら。交通機関、輸送機関、通信機関でおこったら。金融、証券市場、はたまたゴミの収集、介護業務...。それに葬儀社。人口の相当割合が休まなければならない事態となれば、社会機能が麻痺します。

というわけで、1)医療従事者や救急隊員とならんで、2)消防士、警察、自衛隊員、海上保安官、矯正職員など治安維持に関わる業種、3)電気、水道、ガス、石油、食品販売関係者などライフラインに関わる業種、4)国会議員、地方議会議員、都道府県知事、市町村長、検疫所や入国管理局等の公務員など危機管理に関わる者、5)報道機関、ネットワーク事業など通院事業に関わる業種、6)鉄道、道路、貨物運送、航空、水運などに関わる業種には優先的にプレパンデミックワクチンを接種しようとすることが検討されています。

時期は海外でヒトーヒト感染が確認された「フェーズ4A」の宣言をもって厚生労働省で専門家会議を開き、プレパンデミックワクチンの製造~供給~接種体制を敷くことになるのでしょうが、上記の対象者に接種が行き届くまでにどれくらいの日数がかかるのか、そしてそこからワクチン接種から免疫の誘導まで数週間を見込めば、海外での発生から(海外発生を前提としてますが国内が発生源にならない保証はありません)国内流行までの時間をいかに引き延ばすか、流行の拡大をいかに封じ込めるかが鍵となることは明白です。


5)日常生活の制限

そうなれば当然国民の日常生活に支障がでます。パンデミックが起これば、流行の拡大を防ぐために不要不急の外出は控えるよう求められます。外出禁止令ということも考えられないことではありません。輸送に影響がでれば物流が滞りますので、食料や生活必需品のような生活に必要な物資の流通も制限されるでしょう。日本は食糧自給率が低く、外国からの輸入に頼っていますが、国内国外の港湾などの機能が停滞すれば、食糧不足も起こりうることです。

さらにスーパーなど小売りへの影響も免れないでしょう。人の集まる場所でもあるので二次感染の発生源としても注意されるところですが、従業員が多数罹患すれば業務にも支障が生じます。食料など物資の不足を懸念してパニック買いがおこれば、あっという間に品物は底をつくかもしれません。日本においては集団略奪など起こらないと断定できるかといえば、私は自信がありません。

満員電車や駅構内は感染拡大の重要媒体です。パンデミックとなれば電車をはじめ公共交通機関は止めることを求められます。しかしそうなれば当然通勤通学に大きな支障がでます。出勤できない。登校できない。もっとも、ご承知のように学校もまた重大な二次感染の発生源なので、パンデミックとなれば早急な学校閉鎖を求められるべきであります。となると自宅勤務、自宅学習が必要となります。しかし保育所や学校が閉鎖になれば、子供は自宅待機です。母親が主婦だったり祖父母が同居しているようならいいでしょうが、共働きだったり母子家庭だったりすれば、職を休まねばなりません。メールなど通信を使った業務が行き届いていて自宅勤務ができる企業業種もありますが、出社しないことには話しにならないというところだと困りますね。

6)企業活動の制限、経済的損失

そのような状態になれば、平時のような企業活動はできません。2~3ヶ月全く仕事ができなければどうでしょう。生活に是が非でも必要な業種ならともかく、娯楽やレジャー産業などはパンデミックが終息した後、すぐに業績が回復するものでしょうか。商売にならず業績が悪化し、倒産の危機に瀕するところもでてくるでしょう。そうなれば現在の経済規模は相当に縮小することになるのではないでしょうか。新型インフルエンザのパンデミックが起こった場合、その経済的損失は世界で4.4兆ドル(440兆円)、日本国内では20兆円と見積もられています。

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