2009年4月22日水曜日

海から見た東北地方の過去と未来 3 東北の未来


東北の今、そして未来

 東北地方は、本州北部に位置し、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県の6県からなります。総面積は66,890k㎡で、国土の約2割、本州の約3割の面積を占めます。これはチェコと同程度、オランダ・スイス・デンマークの約1.5倍の広さです。総人口は964万人で、これはスウェーデンとほぼ同規模。人口密度は約140人/k㎡で、全国平均343人/k㎡を比べますと少ないものですが、これはスイス(177人/k㎡)、デンマーク(125人/k㎡)と同程度です。東北6県の県内総生産の合計はおよそ33兆円(2004年度)で、東北6県を合わせても全国3位の愛知県に及びません。しかしながらこれはトルコ・オーストリア・デンマークなどのGDPを超えています。

食糧資源供給地としての東北

 東北は食料供給地です。全国比でみますと東北地方の総人口は7.5%にすぎませんが、農業就業人口は18.5%、農地面積は18.8%で、水稲作付面積に関しては25.9%、米の収穫量は27.5%を占めます(平成16年度)。平成16年度の食糧自給率(カロリーベース)は、全国40%のところ、東北全体では104%ですし、県別に見ても青森・岩手・秋田・山形が100%を超えています。米の品目別自給率は全県で250%以上、秋田にいたっては550%近くの自給率です。小麦はさすがに10%以下ですが、大豆は宮城・秋田・山形で60%を超えていますし、野菜や果物は青森・山形が引き上げており、東北全体で100%を超えています。魚介類は青森・岩手・宮城の3県が200%近くかそれ以上で、これも東北全体で140%近くになります。しかし考えてみれば、農業も漁業も石油を突っ込んでこの値なので、足元のしっかりしたものではありません。脱石油を考えれば機械の代わりに人手が必要になますし、就農者問題は重要な課題です。

米処

 かつて東北は涼しすぎて稲作には不向きでしたし、その年の気候次第で収量も不安定でした。しかしその後の品種改良・水利整備など(温暖化も?)もあって、現在では東北は米処です。稲作が盛んなところは平野部であり、そこには大きな河川の河口があり、その河口には良港があります。北上盆地を流れる北上川や阿武隈川が集まる仙台平野には仙台港・石巻港がありますし、能代平野に注ぐ米代川河口の能代港、横手盆地を経て秋田平野に至る雄物川河口(秋田運河)の秋田港、山形内陸部を経て庄内平野に至るの最上川河口の酒田港、新潟県に目を移せば、阿賀野川、信濃川が集まる新潟平野には信濃川河口に新潟港があります。中世に栄えた津軽十三湊も津軽平野から岩木川が注ぐ十三湖にありました。これは、河川の堆積物が平野を作ることや、海を川の結節点である河口が交易に有利であることを考えれば当然のことであります。というわけで、港あるところが米処でもあるわけです。

酒処 ~水素キャリアとしてのエタノール

 米処であるということは酒処でもありますね。つまり、エタノールをキャリアとした燃料電池船(水素船)へのエネルギー供給という点でも有望です。現在、減反政策で日本には埼玉県に匹敵するほどの休耕田があるといわれます。エネルギー米の作付けは採算次第では可能でしょう。しかし、採算がとれるほどエネルギー不足になっていれば、その時には食料不足にもなっているはずです。燃料用エタノールと競合して食用米が不足してしまってはいけません。そこの折り合いがつけば、エネルギー米の生産も一つの可能性として考えられるでしょう。
http://eco.nikkei.co.jp/news/article.aspx?id=2007101702521n2

天然ガス処 ~水素キャリアとしてのメタノール

 前述した水素船のもう一つのキャリアはメタノールですが、これは天然ガス(メタン)を改質しても得られます。天然ガスのほとんどを輸入に頼る日本ですが、天然ガスは国内でも生産されています。全供給量の3.7%にすぎませんが。その国内で生産される天然ガスは新潟南長岡ガス田が最も多く、次いで北海道勇払ガス田、新潟片貝ガス田、福島磐城沖ガス田と続きます。東北地方というわけではありませんが、新潟県はここでも可能性を感じさせます。なにせ明治初期の県別人口では東京を抑えて新潟が一番だったそうですから。需要を満たすには微々たるものではありますが、北日本の日本海沿岸は化石燃料資源処でもあります。

東北七県みちのくの復権のチャンス

日本国内の天然ガスパイプライン網
http://www.jogmec.go.jp/jnews/vol_07/vol_07_02.htm
http://www.sekkoren.jp/kaihatsu/kaihatsu5.htm

漁業資源

 三陸の漁港は全国でも有数の水揚げ量を誇ります。上場水揚量上位20漁港に、焼津、銚子についで3位の石巻をはじめ、八戸、気仙沼など6つの漁港が名を連ねていますし、2005年の海面漁業水揚量は青森、岩手、宮城、福島の4県で全国の15.5%を占めます。もっとも北海道の29%にはかないませんが。でもまぁ、北海道東北合わせますと全国の45%です。繰り返しますが、これは石油あってのものだということに注意が必要です。

海藻からエタノール

 さて、海と言えば、海藻のホンダワラからエタノールを作るという話がありました。
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/05/4002013.html
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/05/400_2.html

 これは、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)をあわせた海域約447万平方キロメートルのうち1~2%を用いるだけで年間1.5億トンの海藻を養殖でき、この海藻から400万~500万キロリットルのバイオエタノールが生産できるというもので、現在の日本国内のガソリン使用量の約1割にあたるとのことです。食料生産と競合せず、地表水を必要とせず、土地利用を妨げず、その上、海水の富栄養化を抑制し、海水中の微量金属や塩類を回収して肥料でき、稚魚の魚礁となって水産資源を増やすなど、いいことづくめのようです。

 日本の領海と排他的経済水域(EEZ)をあわせた海域約448万km2というのは、世界第6位という広大なものです。狭い国土などと嘆くことはありません(日本の国土は決して狭い方ではありませんが)。その1~2%となると、4万5000km2~9万km2。これは、台湾(35,980km2)や九州(36,732km2)より大きく、東北地方(66,889km2)とか北海道(83,454km2)と同程度。東京都の20~40倍、関西国際空港空港島8,800~17,500個分、東京ドーム95万~190万個分に相当します。かなりの面積ですね。
 
 仮に関西国際空港島クラスの5km2のネットで養殖したとして、得られるバイオエタノールは300~450klとなります。日本の年間ガソリン消費量はだいたい6000万klということなので、関空1個分で現在のガソリン消費量の0.0005~0.00075%をまかなえる計算になります。う~ん。これを全国で100基くらい作ると、0.05~0.075%になります。これでもまだ寂しいか。どうやら広大な面積を必要とする割にはエネルギー集積率が低いので大量に供給するには不向きのようです。ならばこそ、エネルギー変換効率の高い水素船でしょう。

森林資源

 日本の人口は1億2777万人(2005年)、東北地方の人口は合計964万人で、全国比でいいますとおよそ7.5%。日本の面積は377,915k㎡、東北地方の面積は66,890k㎡で、全国比だとおよそ17.7%。日本全体の森林率はおよそ67%で、これは熱帯雨林の途上国を除けば、フィンランド75%、スウェーデン70%に次いで世界3位と、かなり多い方です。東北地方全体での森林率は日本全体より若干多い70%。ちなみに世界の平均は30%です。よく環境先進国として取り上げられるドイツやスイスは30%程度、デンマークは10.7%であることを考えると、日本は森林資源に恵まれた国なのです。
http://www.shinrin-ringyou.com/forest_japan/menseki_japan.php

 これを人口一人当たりの森林面積としてみますと、日本全体では2,000㎡/人、東北地方全体では4,900㎡/人と、日本全体の2.5倍あることになります。森林率がそう変わらないわけですから、これは人口の寡多による違いですね。世界的に見ますと、フィンランドの48,100㎡/人、スウェーデンの35,100㎡/人は別格としても、ドイツの1,400㎡/人、スイスの1,700㎡/人、デンマークの852㎡/人よりも日本の人口一人当たりの森林面積が広いことになります。人口がずっと多いにもかかわらず。ところが木材生産量となるとドイツの1/4。いかに自国の木材を使わずに外国産の木材を輸入しているかということの証左といえましょう。

 石油はエネルギー資源であると同時に材料資源でもあります。森林資源もまた古くからのエネルギー資源であると同時に材料資源です。脱石油を考えるときに森林資源が豊富であることはたいへん貴重なことであると思われます。石油が手に入らなくなり統制品となれば、庶民が暖房や調理に利用できる熱源は天然ガスや電気の他、薪や炭といった森林資源となるでしょうし、プラスティック製品の代替としても森林資源は見直されることになるのではないでしょうか。

脱石油時代の物流

 石油の生産がピークを迎え、需要は減らないのに生産が減れば、石油価格は高騰します。現在の原油高は金融破綻によってマネーが物に退避しているからというのもあるでしょうが、基本的に石油生産が減少してゆく以上、多少の上下はあっても長期的には加速度的に暴騰し、いずれ庶民の手には入らなくなるでしょう。今年早々に原油価格は1バレル100ドルを超えました。中国では自動車免許取得者が1億人を超えマイカー時代が到来したそうです。私は石油が統制品になるまであと20年と想像しているのですが、どうでしょうか。

 石油が手に入らなくなれば、移動や輸送はどうしましょう。最も効率がよいのは電車・ディーゼル気動車・コンテナ船・貨物船で、普通トラックの1/6~1/5、小型トラックの1/9~1/8の熱量消費です。石油を燃焼させてエネルギーを得るのではなく、電気的にエネルギーを得るアルコール燃料電池搭載船(水素船)があればさらに効率よく、かつ石油に依存することなく航海できます。海外との交易だけでなく、現在はトラック中心となっている国内の長距離輸送も、江戸時代の東廻り航路・西廻り航路のように船で結ぶというのはいかがでしょう。ひょっとすると昔のように河川輸送も再び盛んになるかもしれませんね。

 港湾を基点として、そこから先は鉄道で運ぶ。電気は発電・送電段階で効率が落ちますので、もちろん自然エネルギーによるマイクログリッド直流送電です。電化されていない路線はバイオディーゼル気動車ですね。これもバイオハイドライド燃料電池電車ってことになればいいですね。2006年に富山市が本格的ライトレールを導入しましたが、路面電車も有望です。ここにキャパシタ技術を使ったキャパシタライトレールなら、停車場で数十秒充電すればあとは電線無しで運行できますよ。そこから先の陸上輸送はさし当たり自転車・リヤカー・大八車などの人力と牛馬ですね。燃料電池トラックやキャパシタトラクターの広い普及はまだ先ではないでしょうか。

東北地方が抱える問題点

労働力

 東北地方が抱える問題点は、第一に人口です。人口の流出が多く、高齢化が進んでいます。人口がこのまま減り続けると、公共サービスを維持するだけの費用が捻出できず社会が維持できなくなるところが増えることでしょう。いくら東北が食料供給地だといっても、それは石油を突っ込んでのこと、石油がなければ人力・牛馬でやるしかありません。その肝心の人手を確保できない、食料生産技術をはじめさまざまな伝統技術、知的資源を伝承できない事態になっています。

マイカー通勤

 東北は人口密度が低く、鉄道網などの公共交通機関が発達していないこともあって、もっぱら移動は自家用車になっています。一家に一台は当たり前、一人に一台のところも珍しくありません。石油が不足すれば郊外の家からマイカー通勤ができなくなり、これまでの通勤圏が維持できなくなります。東北に限りませんが、石油生産が減退し、石油に依存する現代の文明が維持できなくなってくれば、社会産業形態の組み替えが起こるでしょう。それは多くの失業者を生みながら、現在の拡大膨張した都市機能は縮小し、都市と農村とに棲み分けが起こるのではないでしょうか。その時、人の流出が続いた農村漁村が再び人の受け皿になることができるかどうか。

東北地方における海からのリスク

 海は東北にとって活路となる可能性を秘めていますが、手放しに期待ばかりしてもいられません。東北の海には東北の海のリスクがあります。

 放射能汚染のリスク。三陸沖をはじめ東北の太平洋側は地震の多いところですが、ここには東通原子力発電所、女川原子力発電所、福島第一・第二原子力発電所があります。特に福島第一原子力発電所の低レベル放射性廃棄物の貯蔵量は全国でもずば抜けて多いものです。しかし、なにより東北には六ヶ所村核燃料再処理施設があります。ここから海水に放射性物質が流出すれば、親潮によって三陸沖に停滞し拡散しないまま留まるといいます。日本屈指の水揚量を誇る三陸の漁業基地が放射能で壊滅なんてことになったら洒落になりません。一方日本海側では、柏崎原発で放射能事故があれば、対馬海流にのって北日本の日本海側に影響がありましょう。

 海からの招かざる客といえば、大陸や朝鮮半島からの海洋汚染が対馬海流にのって日本海沿岸に影響を及ぼすことも懸念されます。実際に日本海側の海岸では支那・朝鮮からの漂着物(海洋投棄ゴミ)がたくさん流れ着いています。富栄養化についてはエチゼンクラゲの問題を見れば同様でしょう。また、支那や朝鮮の体制が崩壊することがあれば、難民が流出して、日本海沿岸に到着する可能性も考えられます。

海が拓く東北の未来

 貧困・寒村のイメージがある東北地方ですが、過去には繁栄した時代もあります。三内丸山遺跡にみられる、豊富な自然の恵みと広い交易があった縄文時代。砂金と十三湊による交易で平泉文化の栄華を誇った奥州藤原氏。十三湊を交易港として独自の北方貿易で繁栄した津軽安東氏。欧州貿易を模索した伊達政宗。米などの供給基地として海運で栄えた石巻や酒田。こうしてみますと、東北が活気づく時代というのは海と関係しているように思います。中央主導ではなく地方独自に取り組んでいる時代、食糧資源や地下資源を背景に海上輸送による交易が盛んな時代といえるのではないでしょうか(これは東北に限らないでしょうが)。

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