2009年4月26日日曜日

ホメオスタシス (2008/10/15)

 医学や生物学の分野に「ホメオスタシス」という言葉があります。恒常性とも訳されるこの言葉は、体内環境をある一定範囲に保持しようとする自律的機能を表します。具体的には自律神経系、内分泌系、免疫系の発動や抑制が制御されて、自律性を維持するよう機能しています。その中の重要な要素である自律神経系は、交感神経系と副交感神経系とによって成り立っており、両者と両者の平衡による恒常性維持機能を総称して自律神経系と呼びます。

 交感神経系が目的とするところは獲得と回避であり、そのため「闘争と逃走の(Fight and Flight)の神経」と呼ばれます。現象的には呼吸が速くなり、心拍が速く、血圧が高くなり、逆に胃腸の働きは抑えられます。これは脳と筋肉系に大量の血液と酸素を供給しようとするもので、興奮と活動のための総動員態勢というべき状態です。かたや副交感神経系が目的とするところは補修と保全といえましょう。現象としては呼吸や循環が安定し、逆に消化器の活動は活発になります。獲得した栄養を吸収し、それを身体の末梢にまで行きわたらせ、身体を再構築し、脳と筋肉の緊張を弛緩させ、無駄な消費は抑え、疲労を回復する過程です。安静と再生の時間であります。この両者がその平衡機能(バランス)によって生体の恒常性を維持しようと働きます。

フィードバックとは、元来はサイバネティックスの用語である。生物の恒常性や多様性を支えるしくみにその原理が見られる。

(中略)

出力の増加が入力や操作を促進する場合を正のフィードバック、逆に、出力の増加が入力や操作を阻害することを負のフィードバックという。工学分野では、しばしば正帰還および負帰還と呼ぶ。なお、ループ利得は正のフィードバックでは正の値に、負のフィードバックでは負の値になる。

正のフィードバックが働いている場合、フィードバック系の増幅率は裸の増幅率より大きな値となる。ここで特に系のループ利得が1を越える場合には、何らかの破綻が起こるまで出力は増大しつづける。これを避けるには、出力の増大に従ってループ利得が1以下となるような仕組みを導入する必要がある。また、ループ利得が1以上時の特徴的な振る舞いとして、入力が途切れても出力を続けることが出来る、ということが挙げられる。さらに、この領域では初期値の違いが時間の経過にしたがって無限に引き伸ばされるため、僅かな初期値の違いがシステムの挙動を大きく変える(カオスな振る舞いとなる)場合がある。これは複雑性や多様性を生み出す原動力となりうる。

負のフィードバックが働く場合は、フィードバック系の増幅率は裸の増幅率より小さな値となる。この増幅率の余裕分の範囲で、出力の増加は増幅率を引き下げるように働き、出力の低下は増幅率を引き上げるように働くので、出力の変動を抑えることが出来る。したがって、負のフィードバックの方が応用範囲が広く、単にフィードバックと言えば負のフィードバックのことを指す場合も少なくない。

また、負のフィードバックを行なっていても、フィードバックが時間遅れを従っている、言い換えるとループ利得が周波数特性を持っている場合には、出力の「増加させ過ぎ」「減少させ過ぎ」を繰り返してしまう場合がある(これは、一定の時間遅れのときだけ正のフィードバックになってしまう、と表現する事も出来る)。この状況に陥る時間遅れにおいて、ループ利得が1を越える場合は出力は一定の値に収束することなく変動を続ける。この状態を特に発振という。 現実の世界ではフィードバックに必ず時間遅れが発生するので、発振を避ける工夫が必要になる場合がある。
(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

 ホメオスタシスは、ある方向に傾きすぎると、それに対して対向的な方向に傾こうとする機能ですから、ネガティヴ・フィードバックといえます。本来は興奮が延々と続けば相当に消耗しますから、ある程度のところで休息を入れて消耗の回復を図るべきであり、それこそホメオスタシスの目的なのですが、ところがどうやら交感神経自体にはポジティヴ・フィードバックがあるのではないかと思われます。交感神経が活性化すると脳が興奮し、脳の興奮が交感神経を活性化するというループです。恒常性維持の目的を離れて興奮のポジティヴ・フィードバックを起こしてしまうわけです。(注:この場合のポジティヴ/ネガティヴは、好ましい/好ましくないといった意味ではなく、促進的/抑制的という意味です)例えば、不安が不安を喚ぶ、緊張が緊張を喚ぶ、興奮が興奮を喚ぶといったような状況ですね。こうなりますと、交感神経自体はポジティヴに、副交感神経はネガティヴに作動しようとしますから、高い水準での強い拮抗状態となります。

 興奮と弛緩、活動と安静の間を適切な範囲で、ある程度の揺らぎをもって循環をしているうちは良いのですが、何かの都合で、持続的慢性的に興奮・活動状態が続いておりますと、先に申しましたような高い水準での強い拮抗状態が誘発されて、興奮を維持しようとすることが常態となってしまいます。この時、潜在的には疲労が蓄積し消耗・疲憊が進行しているのですが、にもかかわらず興奮する方向への圧力が保持されます。このような状態の元で、ふとした拍子に緊張が弛緩しますと、一瞬ストンと虚脱し、それに反応して直ぐさま交感神経系が過剰反跳性に緊張を高めようとします(リバウンド)。自覚的には仕事帰りや帰宅後に、フッと気が遠くなったと思ったら、急に動悸がして息苦しくなるという交感神経系の過緊張反応となって感じます。一度そうなると、再びそのような状態になることが怖くなり、さらに慢性的な緊張をもたらすことになります。そして平均台の上を自転車で走るような、降りるに降りられない「興奮の自転車操業」が完成します。

 話しは飛躍しますが、資本主義末期の市場原理主義と投機の熱狂は、社会のホメオスタシスから言えば、交感神経系の過興奮だったのではないかと空想してみます。興奮中毒となって、興奮のポジティブ・フィードバックを起こしていたのではないかと。今回の世界的な金融破綻は、疲労がかさんでいた社会がついに虚脱を起こしたようなものではないでしょうか。そうしますと、各国が協調して無制限に公的資金を注入するという合意は、興奮に疲れて虚脱せんとする経済に、興奮剤(覚醒剤)を与えて興奮を持続させようとするようなものでしょう。しかも無制限に与えると言っています。とすれば、その後に待っているのはどんなことか想像がつくでしょう。実際、株式市場はこの発表を受けて反跳性に興奮しました。しかしこれは疲労が回復し、健全なホメオスタシスを取り戻したわけではありません。この後は興奮剤を与えても徐々に反応が悪くなり、虚脱と疲憊にいたるのではないかと思われます。あるいは突然虚脱するかもしれませんし、発狂するかもしれません。

 そうなれば多くの損害と混乱が生じるでしょう。しかしこのまま興奮が永続していればよかったわけではありません。興奮が続けば遅かれ速かれいずれ破綻します。これは「疲れの先送り」「元気の前借り」なのです。疲れを先送りすれば、後に生じる損害は大きくなりますし、元気を前借りすれば、後の回復が悪くなります。ここは興奮を静かにクールダウンして、副交感神経の出番です。中心に集めていた血流を末梢にまで行きわたらせ、痛んだ組織を再構築し、入力と出力を制限し、無駄な消費は抑え、真っ当なバランスを取り直すこと、正しいホメオスタシスを取り戻すことが必要なのではないかと考えます。

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