2009年4月26日日曜日

分散型構造が中心型構造を駆逐する (2008/10/02)

【書籍紹介】グーグルが日本を破壊する(竹内一正,PHP新書,2008)


グーグルとは

Google(グーグル)は、アメリカ合衆国のソフトウェア会社、あるいは、同社の運営するインターネット上での検索エンジンである。

米国グーグルは人類が使う全ての情報を集め整理すると言う壮大な目的をもって設立された。独自開発したプログラムが、世界中のウェブサイトを巡回して情報を集め、検索用の索引を作り続けている。約30万台のコンピュータが稼動中といわれる。検索結果の表示画面や提携したウェブサイト上に広告を載せることで、収益の大部分をあげている。

検索エンジンとしては、2002年には世界で最も人気のあるものになり、AOLなどのクライアントを通じてインターネット検索のトップを占めるまでになっている。日本では、Yahoo! JAPANに次いでシェア2位である。
(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

グーグルは1998年に社員2人で創業しましたが、2007年には14,000人の社員を抱える企業に成長しています。ベンチャー意識を持ち、組織的な動きもでき、業績も上げるという優秀な企業であります。優れた頭脳が集まりますが、その分人件費もかかるようです。そのためグーグルの収益源である検索連動広告収入に比して高コスト体質でもあるといわれます。グーグルは次々に優れたアイディアを形にしていますが、画期的なアイディアも収益に結びついていないのが現状のようです。他にもグーグルは問題を抱えています。巨大になりすぎたことで反トラスト法に抵触することに神経を使い、もう一方では、Gメールに広告を入れるのはメールの覗き見ではないかとか、ストリートヴューはプライバシーの侵害だといった、プライバシーの問題を指摘する声も多くあります。

なにより不信を抱かせるのは、グーグルは体制によって対応を変えているという点でしょう。その分かりやすい例が中国です。中国では「天安門」「ダライ・ラマ」など政治的キーワードは検索できません。中国でビジネスをするためには、検閲を黙認しなくてはならないということのようです。これはすべて機械的に行っているとしてきたグーグルへの信頼を揺らがせました。グーグルは検索履歴から個人の属性・興味・指向を収集することができます。グーグルは圧力があれば手を加えるということになれば、それが権力による監視と支配、そして民意誘導のために利用されるのではないか、という疑念に繋がります。グーグルは問題のあるサイトを表示しないことになっていますが、その判断の基準は明確ではありません。もし人為的な意図による介入によって表示されないとなれば、ネット上には存在しないことになります。「グーグル八分」という言葉でいわれる現象ですね。グーグルに限りませんが、検索してもヒットしない例としては、某ヴォーカロイド・ソフトの画像が表示されないと騒ぎになったことがあります。

グーグルの情報処理で特筆すべきは、世界中に分散したパソコンによって並列的に処理するという手法です。分散型システムがこれだけの衝撃力をもたらすことを示した実例といえましょう。グーグルは画期的な手法で成功しましたが、しかしだからといってグーグルの検索方法が完璧だというわけではありません。グーグルの検索アルゴリズムはいわば人気投票です。そのページに対して張られたリンク数、つまり「被リンク数」が多いほど重要なページと見なしています。もう一つ、滅多にリンクをはらないページからのリンクであるほど重要なページだと見なして、「リンク元のページの総リンク数」も見ています。

そうすると、人気が高いほど人気が高くなるというポジティブフィードバックを生み出すことになります。しかし人気の高いそのページが、検索する人の求めているものだという保証はありません。人気のあること価値のあることはイコールではない、という意味では衆愚政治と似ていますね。グーグルのやってることは、「玉石混合の情報の中から、多くの人気投票によって、その人にとっての玉である確率の高いものを並べる」ということであって、「その人にとっての玉を探し出している」わけではないのです。しかし逆に、欲しいものそのものではないが、そこにまた新たな発見、新たな出会い、新たな冒険もある、というのもまた事実でしょう。

グーグル的なものがもたらすもの

と、冒頭からいきなり課題をあげましたが、グーグルの登場が画期的なものであることに変わりはありません。それは、実はグーグルにとどまらず、もっと大きな、世界を変える意味を持ちます。

グーグルはどんな会社かといえば、広告会社です。「インターネットというインフラを利用した、検索連動型広告を事業化した会社」なのです。そしてこれは、それまでの広告商業モデルに革命をもたらし、さらにそれにとどまらず旧来の中心型構造を破壊する威力を見せています。

旧来の商業モデルは、売上の8割は全顧客の2割が生み出している、いわゆる「パレートの法則(2割で8割)」に基づくような構造でした。

現代でよくパレートの法則が用いられる事象 ※パレートがこれらの説ひとつひとつを唱えたわけではない。いかなる時にも厳密に80:20であるとは限らず、90:10や70:30の場合もある。つまり何事にもばらつきがあることを例に挙げているにすぎない。

ビジネスにおいて、売上の8割は全顧客の2割が生み出している。よって売上を伸ばすには顧客全員を対象としたサービスを行うよりも、2割の顧客に的を絞ったサービスを行う方が効率的である。

商品の売上の8割は、全商品銘柄のうちの2割で生み出している。→ロングテール

売上の8割は、全従業員のうちの2割で生み出している。

仕事の成果の8割は、費やした時間全体のうちの2割の時間で生み出している。

故障の8割は、全部品のうち2割に原因がある。

所得税の8割は、課税対象者の2割が担っている。

プログラムの処理にかかる時間の80%はコード全体の20%の部分が占める。

全体の20%が優れた設計ならば実用上80%の状況で優れた能力を発揮する。

(パレートの法則,出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)


上記のパレートの法則の例から考えてみましょう。売上の8割を全顧客の2割が生み出しているのなら、その2割こそ大事にすべき客ということになります。売上の8割を全商品の2割が生み出しているのなら、その2割の主力商品こそ力を入れるべきである。売上の8割を全従業員の2割が生み出しているのなら、その2割を大事にすべきである。逆に言うならば残りの8割についてはいかにコストや手間を省くかが経費削減のポイントになる。とまぁ、このような発想が生まれてきそうです。

これをエネルギーに当てはめて考えてみればどうでしょう。エネルギー供給の多くは、一部の石油・原子力企業なので、それら少数の大口客が大事。その他の水力、風力、太陽光などは後回し、というような塩梅になります。政治ではどうでしょう。献金の多くは一部の団体だから、そちらの利益が大事。あとはそのついで、とか。あくまでものの例えなのでご容赦のほど。言わんとすることは、一部が多くを占め、それらが優遇される構造だということです。一部のものが中心にあって、多くの部分を支配する、中心型構造の商業モデルといえます。

これに対し、店舗を持たず在庫物流コストの少ないネット販売では、レアなものまで幅広いく揃えることができるので、小さな売上でもたくさん集まれば大きな収益にすることができます。広告もまた然りで、小口の広告主を沢山確保することで収益を生むことができます。このように、少ない大きなところより、たくさんの小さなところで収益を得る商業モデルを、長いシッポになぞらえて「ロングテール」といいます。これを可能にしたのが、双方向性検索連動型広告モデルといえましょう。双方向性とは、メディア(この場合はネット)側からの情報だけでなく、検索という行動を通して利用者が情報を送信し、それに応じて検索結果とそれに関連する広告を送信する、という意味です。この手法はグーグルだけではなく、amazon にもみられます。

検索連動広告の妙味は、「人は、興味のないものには関心を払わないが、興味を持っていることには強い関心を示す」ところにあります。有効対象の密度が高いところに投下することが効率を高めるということですね。この考え方はなにも目新しいものではありません。旧来のTVCMでもすでに取り入れられています。子供向けのアニメにはその関連商品のCMを放映するなどはその例といえましょう。しかし、TVCMでは番組の対象視聴者が広範囲になれば、対象が拡散してしまって、対象を絞った広告投下はできません。つまり視聴率の取れる番組ほど、CM効率は落ちることになります。広い平原に散在するターゲットに絨緞爆撃するようなものですから、それだけの物量を投入出来るところにしかできないともいえます。それでも、もっと密度の低い昼の時間よりは、まだ夜の時間のほうがよかろうと、ゴールデンタイムに力を入れたりするわけですね。きっと、どの時間帯のどんな番組には、どのような対象の密度が高いのか、熱心に研究していることだろうと思います。

これに対して検索連動広告は、その人が感心のある検索語に対して広告を打つので、有効対象者に対して広告する確立が高くなります。効率が高いということです。小さく広告するので費用も安い。安く効率がいいというわけです。しかも、その広告枠の価格はオークションによって広告主が決めますので、その検索語に対する力を入れたいと考えている広告主を選択することになります。この変化は、限られた大口の客が高く効率が悪い広告を打つ、という構造から、沢山の小口の客が安く効率がいい広告を打つという構造への変化です。しかしこの変化は、旧来の中心型構造(中央集権構造)に最適化し我が世の春を謳歌していた人達の権益と真っ向から衝突することになります。

    新聞におよぼす影響

グーグルのサービスの一つである「グーグルニュース」は、様々なニュースを検索し表示します。そこでは新聞社固有のスタンスや編集方針、政治信条を無視し、新聞編集の構成をも無視して、すべて同列に表示するので、重要度はユーザーが自ら判断することになります。そもそも日本の新聞は政府・官庁・警察の「記者クラブ」の発表を記事にしているのが90%だといわれます。いってみれば、大本営発表の広報誌といえましょう。つまり大本営発表が報じないような、本当に知りたい情報は得られないということにもなります。その上、新聞は、制作、印刷、流通・販売といったプロセスが重すぎて速力が弱いという弱点があります。実際、新聞業界は発行部数が減少し、かつ、広告収入も減少しているといわれます。

ネット新聞が無料化を打ち出していることを考えれば、今後「購読料モデル」から「広告売上モデル」に転換して行かざるを得ないでしょう。すると、生き残る有料新聞は高度な専門新聞だけになるのではないでしょうか。制作、印刷、流通、販売の、印刷~が中抜きされ、制作者と利用者が直結するスタイルが進むのではないかと予想されます。もしかしたら「中抜き」の結果、新聞社そのものが中抜きされることも考えられます。フリーランスの記者が、ネット上の共同誌面に記事を発表し、クリック数に応じて広告料が発生し、クリック数に応じて記者に報酬が支払われる。足で稼いだ記事がダイレクトに利用者に評価される。という具合です。これって記者にとっても、やりがいがあるんじゃないでしょうか。

    テレビにおよぼす影響

ハードディスクレコーダーなど録画機器の進歩によって、番組の視聴の仕方が変りました。利用者が最も利用する機能の一つが、番組のCMを飛ばすことです。「CMを飛ばす」人は実に70%。それによるCM効果の損失は540億円だそうです。高い費用をかけて投じたCMが視聴者に飛ばされているのです。

そもそも日本のTVCMの制作は、下請け孫請けに制作を投げる搾取の構造があるといわれます。制作費は中抜きされ、投じた制作費が効果的には使われていません。その上、CMプライスの根拠となる視聴率は電通の子会社である「ビデオリサーチ」が集計しています。ビデオリサーチという唯一の審判が出した数字(それが妥当なものかも検証できない)をもって、広告主に対しては広告費を設定し、テレビ局に対しては番組内容に干渉する。そんなこともあり得ないことではないでしょう。

TVCMが有効ではないということになれば、広告のテレビ離れが進もうというものです。だって無駄なんですもの。これはテレビ局側からすれば広告収入が減少することを意味します。そうなれば次に来るのは経費の削減、とくに人件費の削減でしょう。それがどこから削減されるかといえば下の方から、"8割"のほうからなのではないでしょうか。人も減らされ、給与も減らされ。次はテレビ業界の再編統合に進むかもしれません。

では、番組作りがこうした流れに抗するようながんばりを見せているかといえば、これがはなはだ疑問なのです。最近のバラエティ番組の作りで目立つのは、ヤマ場のところでCMと入れる手法ですが、この「ヤマ場CM」については、70%が「イライラする」と答え、一段落してからCMを入れる場合にくらべて3.8倍も「買いたくない」と回答しているといいます。また、CM明けにCM前のシーンを繰り返す手法については86%が「しつこい」と感じているとのことです。となると、これはスポンサーの金でスポンサーの商品が嫌われるような番組作りをしているということではないですか。いったいどういうつもりなのでしょう。本当は、現場の番組制作スタッフはもっと質の良いものを作りたいのではなかろうかと思うのですが。

    広告業界におよぼす影響

日本の広告代理店は、「広告主の代理」となって広告を制作する、と同時に、テレビや新聞などの「メディアの代理」となって広告枠を販売します。この両方を同じ広告代理店が仕切っているのが一般的です。これは日本国内限定のスタイルで、海外では広告代理店はあくまで広告主の代理です。この日本式のやりやり方は、売り手と買い手の間に入って独占的に仕切る仲買人みたいなものです。しかもどちら側にとっても唯一の窓口みたいなものですから。関所みたいとも言えますし、昔の貿易商人みたいとも言えましょう。広告代理店の最大手、電通グループの経営ビジョンは「価値創造パートナー」だそうです。そりゃぁいくらでも「価値」を「創造」できそうだ、などとイヤミの一つもいいたくなります。広告業界やテレビ業界は高収入で有名ですが、かなりの激務であり相当なストレスもあるといいいます。それだけ全体の収益もあるのでしょう。

グーグルアドワーズの広告費はクリックによって費用が発生する成功報酬型であり、透明性や効率性が高いものです。グーグルは「Google TV Ads」でTVCMにも進出しています。これはCM広告枠をオークションで販売し、受信回数に応じて費用発生する仕組みで、CM効果がすぐわかるという利点があります。クライアントにとって費用対効果比が明確だということは、非常に分かりやすいものです。日本のTV広告は、高い視聴率を根拠に、大口の顧客(大企業)が、数千万~数億の広告費を使って、幅広い対象に広告しますが、一度作った広告は途中での変更することは難しく、状況に応じた機動性が悪いといえます。一方、アドワーズ広告は、小口の客でも、小さな広告から、小さな資金から可能で、オンラインで申込み、オンラインに制作しますし、途中での軌道修正も可能。チリも積もれば山となる形式のやり方といえましょう。広告主がネット広告にシフトし、TVCMにもGoogle TV Adsが導入されれば、少ない費用で、有効対象密度の高いところに広告が打てることになります。これは、広告主とメディアとを直接結ぶ、つまり広告代理店を中抜きすることであって、まさしく電通を代表とする旧来の広告商業商業モデルとぶつかります。

それがグーグルかアマゾンかに限らず、「グーグル的なもの」は間違いなく旧来の構造を破壊するでしょう。小さく多くの人がネットを介して成り立つ商業モデルなら、東京に本社を置く必要もありません。小規模分散型でやれます。旧来の大規模中心型構造(中央集権構造)による支配は、小規模分散型構造によって崩壊することでしょう。

これをエネルギーに置き換えてみてみるとどうでしょうか。原発・化石燃料といった大規模中心型エネルギーが、小規模分散型エネルギーにとって代わられる、という状況ですね。それは速力と高効率化という点で優位であります。

世界は変動しています。旧来の環境に最適化し繁栄していたものは変化について行けずに滅びることになるのではないでしょうか。

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