2009年4月22日水曜日

希望の船 (2007/12/14)


1. 連山訪問

 (出展:蒸気機関wikipedia

 連山の編集部を訪ねました。
 これまで連山とは読者コラムに投稿するだけのつながりで、実際にお会いするのは初めてだったのですが、いやぁ、緊張しましたよ。だってどんな組織なのか正体がよくわかりませんでしたし、内容から察するに敵対勢力もありそうな気がしておりましたから。そんなところに足を踏み入れていいのか、鬼が出るか蛇が出るかという心境だったのです(連山の皆様には笑われるかもしれませんが)。実際に行ってみますと、怪しげな場所に案内されるでもなく、恐ろしげな人が登場するでもなく、普通のところで普通に、いや、たいへんよく対応していただきました。

 現在抱えるエネルギー問題について、各種エネルギーの可能性と課題、そして今後の展望についてご説明いただきました。可能なこと無理なことの見切りが見事で、それを基にしたグランドデザインが明瞭であり、おかげで私自身の未来予想図を明確にすることができました(ご説明いただいたことを私が十分に理解しているかはあやしく、また誤解もあろうかと思いますが)。

 またこの度は飛び入りの私まで、シンガポールの政府系不動産投資会社メイプルツリーから伊藤忠商事に出向しているKen Chew氏との水素船に関する会議に同行させていただきました。Ken氏は大変流暢な日本語でお話しをされる、物腰の柔らかな紳士でした。

 メイプルツリーは、総資産は約7200億円、約12兆円を運用すると言われるシンガポール政府系投資会社テマセク・ホールディングスの完全子会社として2000年に設立された会社であり、港湾運営2位のPSAインターナショナルの保有資産を引き継ぎ、物流・産業施設への投資に特化した不動産投資会社です。2005年には傘下の不動産投資信託「メープルツリー・ロジスティクス・トラスト」を上場させ、同年には伊藤忠商事と業務提携し、伊藤忠の持つ国内資産を運用しています。

 今年12月には、伊藤忠商事との間で、工業施設、物流分野だけではなく商業施設、オフィス分野でも協力関係をすすめるよう業務提携を強化し、それに伴いメイプル側からも物件などを紹介する「相互的紹介」が盛り込まれたほか、両社が互いに社員を派遣しあう人事交流も決まりました。伊藤忠はアジアのあらゆる地域に拠点を持つメイプルツリーのネットワークを生かし、メイプル保有の土地へ共同出資で物流施設などを建設し、こうした施設を貸し出すことで日系企業の需要にこたえようとするものです。

 なぜ、水素船のことでメイプルツリーのKen氏と会議を持つのか、これについてはまた後でふれます。

2. 希望の船

 (出展:内燃機関wikipedia)

 今回、連山編集部を訪問したことで私が理解した内容は、石油から水素へエネルギーパラダイムはシフトする。これは日本がイニシアティヴをとる。これはもう決まったも同然で、日本の務めでもある。あとは関係企業が一本化して力を合わせるだけ、拝金主義と属国根性に毒されていた日本人が目を覚ますだけ。金と石油エネルギーがあるうちに、ここに注力する。新しい時代は、西太平洋~インド洋を経済圏に日本の水素商船が各地域をつなぐ。といったものです。

 もう少し、詳しくお話ししましょう。

 水素の供給はアルコールをキャリアとしたバイオハイドライドシステムを主軸とします。さしあたり10年は天然ガスをメタノール改質して、その後は植物由来のバイオエタノールを水素キャリアとして使います。アルコールを水素キャリアとすることで製造・貯蔵・運搬上の水素爆発の危険性を大幅に軽減することができますし、またアルコール製造は既に確立普及した技術であり、アルコールという水素キャリアを大量に生産することができます。

 最近とりざたされているバイオエタノールとどう違うのか。バイオエタノールもバイオハドライドもどちらもアルコールであって呼び方が違うだけですが、アメリカが旗振りをしているバイオエタノールはガソリンに混ぜて燃やすことを目的にしています。バイオハイドライドはアルコールから水素を取り出し発電するアルコール燃料電池の一形式です。燃焼させることと比較するとエネルギー利用効率が断然違うということです。同じ生産量ならより多くのエネルギーを取り出すことができますし、同じエネルギーを取り出すのならより少ない生産量ですむことになります。

メチルもエチルもアルコール

 (出展:日本ガス協会

 もちろん、アルコールの生産が食料と競合してはいけません。石油の生産ピーク(2006年)が過ぎ、天然ガスの生産ピーク(2020年と予測)を迎えるまでは、天然ガスを改質してメタノールを取り出して利用しますが、その間に南洋諸島をサトウキビの生産基地にし、また中東や豪州の砂漠を緑化して作物生産を確保し(バイオ樹脂を利用した保水技術BRシリーズが必要水分量を1/7に節約しますし、燃料電池が水を供給します)、エタノール供給基地を増やしてゆくことになります。

 日本はバイオハイドライドプラントとエネルギー需要を提供します。太陽光が豊富な地域には食料と水とエネルギーと雇用が発生し、エネルギーの供給源となります。そして、これらの地域をつないでエネルギーを運搬するために船が必要です。それが水素船ですね。アルコールを改質して水素を取り出し電気を起こす、アルコール燃料電池プラントと巨大モーターを丸ごと組み込んだ水素船を建造することができれば、西太平洋からインド洋を経済圏とした交易が可能になります。

港、港に酒場をつくる

港、港に酒場をつくる

 船を運用するには港が必要です。停泊し燃料を補給できる、つまりアルコール生産基地と近接し、補給用の港湾設備を有する補給港が必要になります。中東なら天然ガスがありますから天然ガスをアルコールに改質するプラントを有する港湾。日本なら神戸港と横浜港に同様に天然ガス改質プラント。北マリアナ諸島は日本統治下にあった時代にサトウキビ生産の歴史がありますので、そこに日本から農業指導とアルコール醸造プラントを提供する。そしてシンガポールなら、天然ガスの産地であるインドネシアに近く、またタイ、マレーシアをはじめ東南アジア各国はサトウキビ生産も期待できます。そこで、もともと港湾に強く、アジア各地に不動産投資を行っているメイプルツリーとの会議につながってくるわけです。

 もうひとつ重要なことは、規格の統一です。日本と中東で規格が違えば、燃料があっても補給できません。ガソリンスタンドごとに規格が違っていたのでは車を運用するにも不便だというのと同じことです。そのために船と港湾設備との規格統一プロジェクトが必要になります。バイオハイドライドとアルコール補給の国際規格が決まれば、一気に水素船国際航路への道が開けます。

文明の大転換点


(出展:現代経済学の直観的方法

 アルコール醸造技術については何千年という歴史があります。国内の醸造企業、発酵企業の出番です。蔵元が船のスポンサーになってもいいでしょう。水素船「しらなみ」とか。もちろん造船業は重要ですし、電気、鉄鋼、モーター金型も必要になります。コシヒカリモノカルチャーになりつつある日本の米生産も、適地適作のエネルギー米需要が喚起されます。

 今の世の中に行き詰まり感を感じている方は多いのではないでしょうか。石油の枯渇を控え、温暖化の問題もあるのに、先が見えない重苦しさ。拝金主義や利己主義が横行し、刹那的な享楽か絶望かしかない、まるで文明の終末のようです。そんな閉塞的な状況において、水素文明の夜明けを告げる水素船の建造は大きな希望のように感じます。石炭と蒸気機関が世の中を大きく変えた。石油と内燃機関が世の中を大きく変えた。今度は太陽と植物と燃料電池が世の中を変えます。

 お金と石油のあるうちに水素文明の土台を作っておくべきです。重機も動かせなくなってから燃料電池プラントを作ろうとしてもあとの祭り。原子力なんぞに未練を残さず、石油文明の最後の力を次の世代のために注ぐことに集中しましょう。ちょうど先人が子孫のために智慧を残すように、老木が若木のために葉を落とすように。水素文明のシンボルとして水素船が具現化すれば、世の中に渦巻いている行き場のない閉塞感に風穴を開け、大きな流れを作ることになるでしょう。

 もちろん、水素船だけですべてが解決するわけではありません。陸上移動体用エネルギーの課題はまだ時間がかかりそうですし、ならば当然、農業耕作機械用エネルギーもしばらくは難しい。そうなれば食料生産は人力+牛馬が頼りです。もちろん現在のような高エネルギー消費社会をそのまま継続することは困難でしょう。しかし、明確な目標と希望があれば世の中は変わります。これまでの西方文明が、欲望を消費しながら繁栄する焼き畑式文明ならば、日本が牽引する新しい時代は日本文明を土台とした循環型文明といえましょう。(※本当の焼き畑式農業は何年か周期で巡回する再生可能型農業であるらしいのですが、ここでは「次々に消費してゆく」という俗な意味で使用しました。)

 今回、連山を訪問して水素船の説明をうかがいまして思ったことは、滅び行く時代から新しい時代へと希望を託す船という意味で、水素船はノアの方舟や宇宙戦艦ヤマトみたいだな、ということです。黒船が文明開化のインパクトを与えたように、水素船は新しい文明の扉を突き破るでしょう。ここで動かなかったら孫末代までの恥。根性見せろコラァ! という感じです。

 最後に今回の訪問をこころよく受け入れてくださった連山の皆様に感謝申し上げます。

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