2009年3月27日金曜日

地方の壊死

日本の地方はクルマ社会です。一家に一台どころか成人一人に一台ということも決して珍しいことではありません。地方の企業や役所に勤務する人は数キロ~数十キロの通勤圏から毎日クルマで通っています。鉄道やバスの路線は不採算線をどんどん縮小しており、自治体は高齢者の交通手段を確保するため福祉バスを走らせるなどいろいろ工夫を凝らしています。これは現在の地方が、広汎な地域をパーソナルな移動体で結ぶというモデルで出来ているためです。そしてその根拠となるのが、石油と道路と自動車です。そういうモデルで地方を構築するために手間と予算が投入されてきました。石油を供給するために必要なのがガソリンスタンドですが、広汎な地域をカヴァーするためスタンドは多く点在する必要がありますが、一方では利用者の密度は低いので利益率はよろしくない。その上石油を持ってくるのに輸送料がかかるので、地方のガソリンは都市よりも割高なのが常です。景気が良く、皆が自動車を利用して出かける時代ならそれもいいでしょう。しかし景気が悪化して財布の紐が固くなれば、スタンドは値下げ競争を強いられ収益が圧迫されます。デフレ圧力ですね。それは都市部でも同様でしょうが、利用者密度が小さく原価の高い地方のスタンドのほうが深刻です。これに今度は原油高が加わればさらに消費は冷え込み厳しいものとなります。デフレの後のハイパーインフレ。地方のガソリンスタンドは事業として成り立たなくなるでしょう。

 昨年10月に営業を停止した青森県内のガソリンスタンド最大手の柿本石油(本社・青森市)について、青森地裁は26日午前、破産手続き開始を決定した。破産管財人の弁護士によると、負債総額は約102億円。債権者はリース会社や元社員ら247人。しかし、灯油券やプリペイドカードを購入していた一般の消費者は含まれていないという。
(アサヒ・コム)

鉄道やバス路線が不採算部門を切り捨て事業網のリストラクチャリングを計ったように、ガソリンスタンド網にも(個別事業体としてではなく総体として)リストラクチャリングが起こるでしょう。そうなると利用者にとってはガソリンを詰めるために遠くのスタンドまで行かなくてはならないという非効率な状況が起こってきます。さらに原油価格が上がる(=通貨価値が下がる)ことになれば交通費は上がります。月1万の交通費も原油価格が2倍(=通貨価値が1/2)になれば月2万円、原油価格が10倍(=通貨価値が1/10)になれば月10万です。その時、給与は2万上がるでしょうか、10万上がるでしょうか。「ガソリンが10倍になんてならないだろう(笑)」と思っていませんか。現在ポンドやドルがものすごい勢いで刷られているように、円もすさまじい勢いで刷られます。さらに中東で何事か起これば「原油10倍」ということはあっという間に起こりうることなのです。そうなれば公共交通機関の貧弱な地方は遠距離通勤ということが成り立ちません。社員職員が通勤できなければ事業もなりたちません。人は都市に流入し過疎地はますます捨てられるでしょう。人が少なくなればますますガソリンスタンドは成り立ちませんから過疎化のポジティヴフィードバックがかかります。もちろんこのような事態になれば物価の上昇は石油価格だけに留まりません。その場合も輸送料が上乗せされますから都市部より地方のほうが物が高くなります。

もう一つ深刻なことがあります。地方は日本の食糧の生産地であり供給地です。ところがそこで動く耕耘機もトラクターも田植機もコンバインも石油で動いています。また生産物を運ぶ軽トラックや長距離を運ぶトラックもまた石油で動いています。燃料供給スポットであるガソリンスタンドが破綻したり石油価格が上昇すれば日本の食糧生産や食糧の供給が成り立たなくなります。石油高によって生産コストが上昇すれば生産物価格も高くなり、不況の中、外国産食糧に対して競争力を失うでしょう。作っても売れないということが起きるというわけです。石油が暴騰して買えなくなれば、最悪、耕せない、収穫できない、運べないということが起こります。一年かけ丹誠込めて育てた生産物でも買ってもらえなければ価値は生じません。運べなければ価値は生まれません。自家消費したり知人に配ったりしても余ったものは、ただ自然の摂理に従って腐ります。生産と消費の適正循環が維持できなければ豊作貧乏ということが起こります。現在、雇用不安、失業問題から就農を志す人が増えています。しかし一方ではこうした要素によって離農圧力が高まりかねません。

 青森県板柳町を流れる岩木川などの河川敷で、計数百キロのリンゴが不法投棄されているのが見つかった。腐敗が進んでいる実も多く、リンゴの処分に困った人が捨てたとみられる。
 昨年、同県のリンゴは過去最大のひょう被害を受けた。膨大な量がジュースなどの加工用に回されたが、加工業者も過剰在庫でリンゴの受け入れを制限。農家の在庫リンゴが行き場を失った。
 リンゴを肥料にする薬の購入費助成も自治体が試みているが、「4月になると気温が上がって在庫リンゴの腐敗も進み、さらに投棄される恐れも」と同町経済課。「リンゴ王国」にはつらい春の訪れだ。
(アサヒ・コム)

クルマ社会である地方の移動物流にとってエネルギー供給スポットが無くなったり、エネルギー価格が高騰して経済価格で入手できなくなることは兵站の途絶です。地方は食い物があって有利じゃないかと思われがちですが、現在のモデルでは物やエネルギーの兵站という点で都市よりも脆弱です。生体においては血流が途絶えれば組織は虚血性の壊死を起こしますが、日本では地方から機能不全に陥り壊死してゆくでしょう。地方で生活の基盤を失えば都市に流入します(同様のことを世界規模でみれば途上国から先進国へ難民が発生します)。都市では治安は悪化し応仁の乱の京の都のようになるでしょう。

では、どうしたらいいか。

まずは省エネですね。一人一人がパーソナルにクルマで移動するよりは、電車やバスでまとめて輸送するほうが効率がいい。自動車の乗り合い、自転車通勤は身近な工夫です。もっと効率がいいのは移動しない輸送しないです。まったく移動しない、まったく輸送しないというわけにはいきませんから、[移動機会]×[移動距離]、[輸送機会]×[輸送距離]を効率化して運用することです。そのためには事前の段取りが必要です。情報を制御して必要な移動輸送を必要な時と場合に実行する。その事前の段取りも集まって会議をするよりは通信で話をつける。無駄な会議、無駄な出張、無駄な仕事はそぎ落とす。家でできる仕事は家でこなす。物のやり取りは近いところ優先。情報化による超高効率化。その上での「食とエネルギーの自給自足・地産地消」です。種も肥料も地元で調達。出来たものも地元で消費。風力・水力・バイオマス。地元でエネルギーを作って地元で融通し合う。そして余剰の換金作物で交易です。どのみち石油はいずれなくなるのですから。

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