2008年12月27日土曜日

水銀

水銀】〔mercury; (ラテン) Hydrargyrum〕
亜鉛族元素の一。元素記号 Hg 原子番号80。原子量200.6。主鉱物は辰砂(しんしや)。
常温で液体である唯一の金属。有毒。金・銀・スズなど多くの金属とアマルガムをつくる。
(三省堂提供「大辞林 第二版」より)

mercury】 (n.)
[神話](諸神の使い)マーキュリー神(商業・雄弁・旅・盗賊の守り神)
[天文]水星,(古)使者
[化学]水銀(記号 Hg),(the ~)水銀柱
[商標]マーキュリー(米国Ford Motor社製の乗用車)
[慣用] The mercury is rising. 天気が回復している/景気が良くなっていく/次第に興奮してくる.
(三省堂提供「EXCEED 英和辞典」より)

Wikipediaはじめ、ネット上の情報をかき集めて書きました。原著にはあたっていませんので、間違いがあったらすみません。


水銀の分布
自然界での水銀の主な産出源は、地殻からのガスの噴出、火山からの排出、天然の水からの蒸発である。天然水銀の自然界への排出量は年間2,700~6,000トン程度と推定される。世界の水銀産出量は、年間約10,000トンと推定され、採鉱過程でのロスとして自然界への排出、大気中への蒸散が生じる。その他、化石燃料の燃焼・金属硫化鉱石の製錬・金の製錬・セメント生産・廃物の焼却・金属類の工業的適用などによっても水銀は排出され、人間活動による水銀の大気への放出量は、世界で年間3,000トンと推定されている。

人間の生活活動でも、科学肥料や産業廃棄物などにより、水銀は環境中に放出される。メチル水銀は工業汚染、国外では種子の殺菌剤として利用された結果、川や湖でしばしば検出される。ちなみに日本における水俣病は、アセチレンから酢酸誘導体へ変換する際に用いられた水銀触媒に由来する工場廃液が原因であった。現在の日本ではアセチレン誘導体の工業生産も水銀系農薬も利用されない。

水銀の形態
水銀は金属水銀として存在する他、蒸発して蒸発水銀として、また、金・銀・スズなど多くの金属とアマルガムとして、あるいはメチル水銀などの水銀化合物の形で存在する。
金属水銀は酸化されて酸化水銀になりやすい。また、様々な外力で液滴が分かれて小さな粒子となりやすいため、その分、表面積も増加する。このような性質は水銀曝露の危険性を高める。金属水銀は沸点が高いが、室温でも蒸発はする。水銀蒸気によって飽和した20℃の空気中には、現在の職業上暴露の許容濃度の200倍以上と、毒性を示すに十分な量の水銀が含まれる。それは高温になれば一層危険性は増す。

水銀の環境動態
水銀は様々な発生源から環境中に拡散する。排出された水銀蒸気は溶解性の構造に変換され、雨水により土壌および水中に降下する。大気中における水銀蒸気の残留期間は3年と推測されるが、一方、溶解性水銀の大気中残留期間はわずか数週間である。土壌からの浸透、大気からの沈降によって、水銀は最終的には水に行き着く。pHが5~7の場合に水中の水銀濃度は増加する。水中の無機水銀はメチル化され、メチル水銀になる。これは、ある種の微生物によって変換されるが、そうでなくても起こり得る。水銀が無機水銀からメチル水銀へ変化するのは、生物の食物連鎖に入る最初の段階である。ほとんどの生物はメチル水銀を吸収する。メチル水銀は生物の体内に吸収され、排出されるが、吸収量が排出量を上回れば体内に蓄積する。魚は水から多量のメチル水銀を取り込む。その魚を補食した動物にはメチル水銀が蓄積され、食物連鎖の上位にある生物ほど高濃度のメチル水銀を摂取することになり、結果、食物連鎖の上位にある生物ほど高濃度に蓄積する。このような現象を生物濃縮という。人への健康被害のほとんどは、無機水銀がメチル水銀へと変換され、水産物などを介してメチル水銀に暴露することから発生している。メチル水銀は環境中から食物連鎖によって生物濃縮され高濃度に蓄積される。そのため、カツオやマグロ、カジキなど大型魚には注意が必要である。植物は土壌湿度が高い状態だと水銀を吸収するが、乾燥すると排出する。キノコ類もまた土壌から水銀を吸収する。

水銀曝露
人への水銀の取り込みは、空気および水中の水銀濃度に依存する。人が水銀に曝露する機会は様々であるが、主としては食餌から取り込まれる。特に魚類を介しての水銀摂取が水銀曝露が主な経路である。また、歯科アマルガムによっても水銀に暴露する。実験によれば、歯科治療によるアマルガム充填箇所から蒸気として放出されるとされるが、それによる水銀摂取推定量と実際の水銀蓄積量には個人差が大きい。皮膚漂白用石けんおよびクリームには昔から水銀が使われることがあり、水銀暴露を起こすことがある。労働環境的には、塩素アルカリ工場・水銀鉱山・温度計製造所・製錬所・歯科診療所において高濃度の無機水銀曝露が報告されている。18~19世紀にかけてフェルト製帽子の製造に水銀を含む化合物が用いられていたことがあり、「帽子屋のように狂っている (Mad as a hatter)」という表現は水銀中毒をさしているものと思われる。『不思議の国のアリス』に登場する「帽子屋」が例として知られる。

体内動態
金属水銀は他の重金属と同様、蓄積され毒性を発揮する。ちなみに水銀と同じ亜鉛族元素には亜鉛、カドミウムがある。金属水銀は皮膚からはゆっくりと吸収される。消化器からも吸収されるが皮膚からの吸収よりは遅い。金属水銀の胃腸管からの吸収は少ない(1%以下)が、吸収された約80%は体内に滞留する。無機水銀化合物の胃腸管からの吸収は10%以下であるが、個人差が大きい。蒸気を吸入すると肺から容易に取り込まれる。呼吸器系から蒸気として吸収すると毒性が強い。無機水銀の微粒子は呼吸によって蓄積・吸収されるが、その吸収率は微粒子のサイズに依存する。水銀蒸気、無機水銀化合物は吸収された後、主に腎臓に蓄積する。また、脳には血液と脳細胞の間に物質の通貨を制限する血液脳関門と呼ばれる”フィルター”があるが、水銀はその脳の血液脳関門を通過し、脳にも多く蓄積する。同様に胎盤関門を通過し、胎児にも高濃度に移行する。体内では、金属水銀の2価水銀への酸化、2価水銀の金属水銀への還元、無機水銀のメチル化、メチル水銀の2価無機水銀への変換などの代謝変換が起こっているとされる。水銀は、一部呼気中に放出されるが、主には糞便と尿によって排出される。また胎児に移行すれば、結果として母体の水銀量は減少する。メチル水銀の生物学的半減期は70日程度とされるが、一部の水銀の生物学的半減期は数年におよぶ。厚生労働省の調査によると、日本人の平均的な水銀摂取量は8.4μg/人/日 (1.2μg/kg体重/週)であり、魚介類からの摂取は84.2%となっているが、これは平均値であり、地域や生活様式によって大きな差がある。


水銀の毒性

金属水銀・無機水銀
金属水銀の毒性は有機水銀化合物よりもはるかに低い。しかし生体内に取り込まれると有機化合物へと変換されるため、金属水銀が環境中に放出されことは有機水銀同様に問題となる。水銀蒸気や塩、有機水銀化合物の毒性は、液体の金属水銀よりもは高く、摂取・吸入・摂食すると、脳や肝臓に障害を与えるとされている。水銀蒸気の急激な吸入は、胸痛・呼吸困難・咳・喀血を起こし、時に間質性肺炎を起こして死に至る。高濃度の、もしくは低濃度であっても長時間水銀蒸気にさらされると、脳に障害を受け、最終的には死に至る。亜急性暴露は、せん妄・幻覚・自殺的傾向を特徴とする精神的反応を引き起こす。職業的暴露は神経系の過敏な興奮を惹起させ、広範囲におよぶ機能障害もたらす。塩化第二水銀は職業的曝露あるいは皮膚漂白用クリームの使用によって吸収され、腎臓に蓄積されて、腎炎、蛋白尿を引き起こすなど、腎機能へ影響を及ぼす。重篤な場合は急性尿細管壊死を来たし、人工透析を用いなければ死に至ることもある。金属水銀蒸気および水銀化合物は接触皮膚炎を発生させる。水銀製剤は、小児の先端疼痛症の発生の原因とされてきた、また、水銀蒸気暴露は急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(川崎病)の一因であることが指摘されている。

有機水銀
水銀の化合物は単体の金属水銀よりもはるかに高い毒性を持つ。有機化合物では特に顕著である。例えば、ジメチル水銀は非常に危険な神経毒であり、1997年、米国の大学教授は実験中、ラテックス製の手袋に1滴のジメチル水銀をこぼしたところ、水銀中毒の症状を示し数か月後に死亡した。

メチル水銀
メチル水銀とは、水銀がメチル化された有機水銀化合物であり、ジメチル水銀とモノメチル水銀が知られている。いずれもきわめて毒性が強く、特にモノメチル水銀は水俣病の原因物質として知られている。概して、金属水銀や無機水銀化合物が腎毒性を強く示すのに対して、メチル水銀類は、中枢神経毒性が強く現れる。金属水銀や無機水銀であっても、それらは生体内でメチル化され、メチル水銀は生じる。メチル水銀は脂溶性物質であり、血液脳関門を通過し脳に蓄積される。その結果、脳・神経細胞が破壊され、様々な神経症状を呈する。その主要な症状としては、比較的軽症の場合には、頭痛、疲労感、味覚・嗅覚の異常、耳鳴りなどが見られる。これらの非特異症状だけで他の疾患と鑑別することは困難であり、メチル水銀摂取の事実が明らかであるときに疑われる。症状が進行すると、手足のしびれ感など四肢末端優位の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害、平衡機能障害、言語障害、振戦(手足の震え)等が現れ、それが徐々に悪化して歩行困難などに至ることも多い。重篤な場合は、狂騒状態から意識不明をきたしたり、さらには死亡したりする場合もある。直接の死因としては、食物誤嚥による嚥下性肺炎が多い。メチル水銀自体は比較的排泄されやすいので、メチル水銀の摂取をやめれば、徐々に体内の蓄積は減少するが、いったん生じた脳・神経細胞の障害の多くは不可逆的であり、完全な回復は望めない。しかしながらリハビリの効果は期待できる。

エチル水銀
エチル水銀は殺菌剤チオメルサールの分解生成物である。メチル水銀と類似した効果を持つが、同じではない。1930年代からチオメルサールは保存料としてワクチンにごく少量が添加されていた。その悪影響はアレルギー以外何ら示されてはいないが、アメリカ小児科学会は予防的措置としてチオメルサールの使用を控えるよう勧告しており、今日では、インフルエンザワクチンなど数種類を除き、米国で使用される小児用ワクチンにチオメルサールは使われていない。

胎児への影響
メチル水銀は胎盤を通過し、器官形成中の胎児へ蓄積する。そのため、妊娠した女性が水銀に被曝した場合、発生障害を持った子供が生まれることがある。摂取が一時的なら、水銀の排出にともなっていくつかの中毒症状は回復する可能性があるが、重度または長期間にわたり被曝した場合は回復できない障害を残す。特に毒性の高い化合物に曝露されれば死亡することもある。小児の水銀曝露は自閉症的傾向の要因の一つと疑われるが、確証はない。臍帯血水銀濃度を調べた研究では、臍帯血中の水銀濃度が高くなるに伴い、運動機能、注意、視覚空間、言語、 言語記憶の各テストの得点が相対低下するという。

メチル水銀中毒の歴史
古代より水銀は永遠の命や美容などで効果があると妄信されており、多数の権力者が水銀中毒で死亡したと伝わっている。奈良の大仏建造の際、作業者の間に原因不明の病気が流行したとの記録があるが、当時の金メッキが、水銀と金のアマルガム合金を用いた工法であったことによる水銀中毒と考えられる。16世紀、ヨーロッパで大流行した梅毒の治療法として、蒸気の吸入や軟膏の塗抹などによる水銀療法が用いられた。これにより多くの水銀中毒が出た。

ハンター・ラッセル症候群
1940年、イギリスのアルキル水銀を使った農薬工場において、従業員が(1)運動失調、(2)構音障害、(3)求心性視野狭窄の3症候を主症状とする事例があり、ハンターとラッセルによってメチル水銀中毒による中毒症である旨が報告された。これをハンター・ラッセル症候群と呼ぶ。

水俣病
1952年頃から、熊本県水俣市の水俣湾周辺の漁村では猫・カラスなどの不審死が多数発生するようになった。その後、特異な神経症状を呈して死亡する住民がみられるようになった。
1956年になると、似たような患者の発生が顕著となり、これが工場排水によるメチル水銀中毒の集団発生であることが確認された。以来、環境汚染による公害病としてのメチル水銀中毒を水俣病と呼ぶ。水俣市での集団発生では、症状の顕著な例がハンター・ラッセル症候群に類似していたため、メチル水銀中毒の可能性が疑われ同定されたが、実際には重症例ばかりではなく、軽症例も多数存在し、精緻な作業ができない、作業能率が悪い、痛みに鈍いため怪我をしやすいなど、日常生活に支障を来す場合が多く、そのため失職することもあったという。また水俣近海産の魚介類の市場価値は失われたことで漁民たちの収入が減少し、食糧を魚介類に頼ることが多くなり被害が拡大した(ポジティヴフィードバック)。一方では、新日本窒素肥料水俣工場に勤務する住民も多いことが、原因究明の動きに対する抵抗となったり、企業側での隠蔽の動きがあったり、政府や調査班での火消しとも思える情報の混乱があったりと、原因究明は難航した(ネガティヴフィードバック)。
1960年、新潟県阿賀野川流域でも同様の患者の発生が確認され、1965年、新潟大学は有機水銀中毒と見られる患者が発生していると発表した。これはのちに新潟水俣病あるいは第二水俣病と呼ばれるようになる。
1970年代前後に中国の吉林省から黒竜江省にかけての松花江流域で、メチル水銀および無機水銀による土壌汚染が明らかになった。
1971年、イラクでメチル水銀を原料とする殺菌剤を使用した穀物がパン製造に使われ、広範な水銀中毒が起こった。
1990年代になってアマゾン川流域でも金採鉱で利用した金属水銀が環境中に放出され、水銀による住民の健康被害が確認された。

産業廃棄物問題
平成20年12月8日、NHKの報道番組、クローズアップ現代において「行き詰まる産廃処理」というタイトルで滋賀県栗東市の産業廃棄物問題が取り上げられて以来、琵琶湖の水銀汚染の危険が注目される。この栗東市の処分場から、環境基準の280倍を超える水銀が検出されたというものだが、仮にそれによって水銀中毒の恐れがあったとして、これは水俣でのメチル水銀中毒とはいくつかの点で様相が異なる。

水俣病発生の部隊となった八代海は、九州本土と天草諸島に囲まれた内海で、面積は約1,400km2である。メチル水銀の発生源は工場からの高濃度未処理廃液。摂取経路は生物濃縮された魚類の傾向摂取。症状発現まで推定数年~10年と考えられる。

一方、琵琶湖は日本最大の湖で、面積は約670km2。八代海の1/2弱である。栗東市の産業廃棄物処分場からは地下水経由で上水道水源地に水銀灯の有害物質が浸透することが懸念されており、それらは最終的には琵琶湖に流入する。八代湾が内海とはいえ外洋に繋がっているのに対し、琵琶湖は、瀬田川~宇治川~淀川と名前を変えて大阪湾へ流出する河川があるものの、基本的には閉じた水系である。この点から言えば、面積が半分の閉鎖水系の汚染といえるので、より危険性が高いといえよう。

発生源からの水銀流入量の比較は分からないが、高濃度の工場廃液の垂れ流しよりは、処分場からの浸透流入量は少ないかもしれない。しかし、工場なら操業停止命令を出せばそれ以上の排出はないが、処分場では途中で止めることはできず、最終的に現在蓄積されている量のすべてがいずれは流出することになろう。現在の産廃の量から推定される水銀量がすべて琵琶湖に流入した場合にどれほどの濃度になるのか、推定することはできるだろう。

また、水俣病が魚類摂取による水銀曝露であったのに対し、栗東市産廃問題は上水道汚染である(ブラックバスを食糧にしているわけではない)。これは栗東市にとどまらず、京阪神の水瓶である琵琶湖を汚染し、京阪神圏の上水道を広汎に汚染する可能性がある。生物濃縮による高濃度摂取ではないが、水は飲料水となるばかりではない。米を炊くには、パスタを茹でるには、カレーを煮るには、風呂に入るには何を必要とするのか。1日の水分摂取量、1日の水道消費量を考えればどれだけの量の水銀に曝露するかは推定できるだろう。琵琶湖が汚染されれば、琵琶湖の観光地としての価値も低下し、京阪神圏の上水道が水銀で汚染されれば、京阪神圏全体の致死的問題となろう。そうなれば、それは日本国全体の問題である。

想像するに、水俣病が亜急性高濃度曝露であるのに対し、琵琶湖水系が水銀汚染された場合は、慢性低濃度曝露となるのではなかろうか。その場合、水俣病と同様の症状を呈するとは限らない。軽症例が多ければ、それは環境要因による障害であるとは気がつかれないかもしれない。成人ではイライラや疲れやすさ、生まれてくる子供にあっては、キレやすい子や、自閉的傾向のある子が多くなったという印象程度しか与えない可能性もある。慢性低濃度曝露の場合の影響を評価することは、他の多くの因子にマスクされて困難なのではなかろうか。有機リン系農薬の慢性曝露による小児への影響を訴えている人がいるが、なかなか認知を得にくいでいることを思い起こさせる(もっともこれは政治的な理由もあるのではないかと勘ぐるのだが)。


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